妊娠初期のインフルエンザワクチンは安全ですか?

スポンサーリンク

 

 妊娠初期にインフルエンザワクチンを検討している人がふえています。流行期を前に十分備えておきたい、ということでしょう。

 一般的に妊婦には安全に接種できると言われていますが、妊娠初期の安全性については検討されているのでしょうか? 

 調べてみました。

 

妊娠初期のデータは少ない

 アメリカ疾病予防管理センター(CDC)から。 

Prevention and Control of Seasonal Influenza with Vaccines

Pregnant women and neonates: Currently available IIVs are classified as either Pregnancy Category B or Category C† medications, depending upon whether adequate animal reproduction studies have been conducted. Available data indicate that influenza vaccine does not cause fetal harm when administered to a pregnant woman. However, data on the safety of influenza vaccination in the early first trimester are limited (242).

 

 妊娠初期のインフルエンザワクチンの安全性についてはデータが限られている、とあります。ここに引用文献がひとつついていましたので、読んでみることにしました。

後向きコホート研究(2012年)

Sheffield JS, Greer LG, Rogers VL, Roberts SW, Lytle H, McIntire DD, Wendel GD Jr. Effect of influenza vaccination in the first trimester of pregnancy. Obstet Gynecol. 2012 Sep;120(3):532-7. doi: 10.1097/AOG.0b013e318263a278. PubMed PMID: 22914461.

  • P▶  クリニックを受診した妊娠初期の妊婦に
  • E▶  インフルエンザワクチンを接種すると
  • C▶  インフルエンザワクチンを接種なしと比べて
  • O▶  胎児や新生児の予後は悪化しないか
  • T▶  害、コホート研究
《結果》※※
ワクチン接種 8690人(うち妊娠初期のワクチン接種 417人)
ワクチン接種なし 76153人
主要な新生児アウトカムについてのオッズ比と95%信頼区間f:id:cometlog:20131204103543p:plain

 

 数少ない貴重な研究データではありますが、妊娠初期での接種は417人という少人数です。このため95%信頼区間がかなり広くなっています。

 このデータだけでは一定の傾向があるかどうか、なんとも言えませんが、NICU(新生児特定集中治療室)への入院はむしろ少なくなっている傾向がありそうです。

 しかし、ワクチン接種群8690人全体でも、大奇形136人、死産30人というレベルですから、妊娠初期のワクチン接種群での発症数自体が、かなり少なかったはずです。

 

 妊婦全体のワクチン接種群のデータとしては、ワクチンなしと比べて大奇形は差がなく、死産や新生児死亡は少なくなっています。

 

 CDCで引用している文献がこれだけですから、まだ妊娠初期に関するデータはほとんどないのかもしれません。

 

母体の安全性について

 さきほどの研究は胎児の安全性に関する報告でしたが、母体の安全性については2013年に報告があるようです。(読者からのご指摘ありがとうございます。)

 早速、読んでみました。

後向きコホート研究(2012年)

Nordin JD, Kharbanda EO, Benitez GV, Nichol K, Lipkind H, Naleway A, Lee GM, Hambidge S, Shi W, Olsen A. Maternal safety of trivalent inactivated influenza vaccine in pregnant women. Obstet Gynecol. 2013 Mar;121(3):519-25. doi:10.1097/AOG.0b013e3182831b83. PubMed PMID: 23635613.

  • P▶  Vaccine Safety Datalinkに登録された妊婦のうち
  • E▶  妊娠初期(妊娠14週未満)に3価不活化インフルエンザワクチンを接種すると
  • C▶  接種なし(年齢、開始日などをマッチ)に比べて
  • O▶ 3日以内、 42日以内の有害事象は多いか
  • T▶  害、後向きコホート研究
《結果》※※
ワクチン接種なし 147,992人、ワクチン接種 75,906人
ワクチン接種のうち妊娠初期 21,553人(28.4%)f:id:cometlog:20131205223247p:plain相対危険=調整発症率比

 

 結果は妊娠初期のワクチン接種についてのみ抜粋してみました。今回は妊娠初期に接種した2万人以上の妊婦を対象とした研究です。

 3日以内、42日以内に妊婦の急性イベントが大幅に増えることはなさそうな結果となっています。

 

Vaccine Safety Datalinkとは

 この研究ではVaccine Safety Datalinkからの電子データが利用されています。

 ワクチン安全性データリンク(Vaccine Safety Datalink:VSD)プロジェクトとは、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)と9つのマネージド・ケア組織による共同事業で、予防接種後の重篤でまれな副作用に関する情報収集を行い、ワクチンの安全性を科学的に評価しようとする試みです。

 詳細はこちら。

CDC - Vaccine Safety Datalink - Vaccine Safety

The Vaccine Safety Datali... [Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2001 Aug-Sep] - PubMed - NCBI

 

 まれな副作用については、大規模なデータが集積されてはじめて検討することができるようになります。このような米国CDCの取り組みはたいへん貴重であり、これからも着実に成果を出してくるでしょう。

 これに比べて日本のしくみはまだまだ発展途上です。

 

VSDからの続報  

 さらに、妊娠初期のインフルエンザワクチンについて、2013年9月にもVSDからの報告が出ていました。こちらも確認しておきましょう。

後向きコホート研究(2013年)

Kharbanda EO, Vazquez-Benitez G, Lipkind H, Naleway A, Lee G, Nordin JD; Vaccine Safety Datalink Team. Inactivated influenza vaccine during pregnancy and risks for adverse obstetric events. Obstet Gynecol. 2013 Sep;122(3):659-67. doi:10.1097/AOG.0b013e3182a1118a. PubMed PMID: 23921876.

  • P▶  Vaccine Safety Datalinkに登録された妊婦のうち
  • E▶  3価不活化インフルエンザワクチンを接種すると
  • C▶  接種なし(年齢、開始日などを1:2でマッチ)に比べて
  • O▶ 42日以内での産科的有害イベントは多いか
  • T▶  害、後向きコホート研究

《結果》※※
ワクチン接種 74,292人、ワクチン接種なし 144,597人f:id:cometlog:20131206010028p:plain

 

 妊娠初期(妊娠14週未満)の結果のみを抜粋してみました。

 やはり大規模な検討がなされていましたが、この報告からも、妊婦にインフルエンザワクチンを接種しても産科的合併症が増加するということはなさそうな結果です。

 

 発表当時、非常にホットなテーマとなっていたことがわかります。新型インフルエンザが流行した際、妊婦の接種についての社会的要請も高まり、安全性について関心が高まったためでしょう。

 今後もさらに報告があるかもしれません。

 

妊娠初期のインフルエンザワクチンは安全ですか?

  • 妊娠初期でのワクチン接種については、いくつか報告があるのみである。
  • 妊婦については有害事象・産科的合併症が多くなるという傾向はみられない。
  • 胎児についてはコホート研究があるが、症例数がまだ十分ではない。

 

(2013.12.5 一部修正、2016.6.6 記事を統合)