予防接種の効果と害

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風疹はワクチンで予防できますか?

風疹
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風疹ワクチンの効果は?

 風疹が流行しています。広報の効果もあってか、風疹ワクチンの需要が増加(特需?)しているようです。詳細はこちらから。

厚生労働省
風しんについて

 

 さて、風疹ワクチンはどのくらい効果があるのでしょうか?これだけアナウンスされているのですから、確固たる効果が証明されているのでしょう。期待しながら調べてみました。

 一般的な記載はこのようになっています。

国立感染症研究所
風疹Q&A;(2012年版)
Q 2-7 風疹の予防接種をうけると風疹にはかからないと考えてよいでしょうか。
A すべての薬が100%の効果をもつとは限らないように、ワクチンの効果も100%とはいえませんこれまでの報告を総合すると、風疹ワクチンを1回接種した人に免疫ができる割合は95~99%と考えられています。現在は、2回の接種が定期接種として実施されており、より高い効果が得られています。


 いまいち歯切れの悪い説明のように感じます。

 そもそも、「免疫のできる割合」は風疹発症予防が証明されてわけではない代用のアウトカムです。

 

 そこで、ワクチンでどのくらい風疹の発症が予防できるのか、オンライン教科書を使って検索してみました。

 

驚きの「研究なし」

 いきなり2012年のコクランのメタ分析にたどり着きました。

 網羅的に検索されているため、概ね代表的な臨床研究は含まれていると思います。論文はこちら。

Demicheli V, Rivetti A, Debalini MG, Di Pietrantonj C. Vaccines for measles,mumps and rubella in children. Cochrane Database Syst Rev. 2012 Feb15;2:CD004407. doi: 10.1002/14651858.CD004407.pub3. Review. PubMed PMID:22336803.

 

 小児に対するMMR(麻疹・流行性耳下腺炎・風疹)ワクチンの効果を検証したシステマティックレビューです。麻疹、流行性耳下腺炎、風疹それぞれについて記載されています。

 そこに驚きの記述が。

Rubella
We found no studies assessing the effectiveness of MMR vaccine against clinical rubella.  


 MMRワクチンに関しては、風疹に関する効果を検証した研究はなかった、とのことです。

 コクランでさえ見つけられなかったのなら、もしかすると研究自体がないのでしょうか。

 それとも、MRワクチンや風疹ワクチン単独では見つけられるのでしょうか? 

 オンライン教科書を少し調べてみましたが、残念ながらちょっと見つかりませんでした。

 

PubMed検索では

 驚きの「風疹ワクチン、研究なし」から一夜明け、もう一度冷静になってPubMed検索をしてみることにしました。

 基本に戻ってClinical queriesから検索。"rubella vaccine"で検索したところ、

search result
PubMed検索結果

 

 何と、2013年にシステマティックレビューが2本も発表されていました!!

 期せずして、このような偶然が時々ありますので、世界はすごいです。地道に研究をされている研究者に感謝。

2013年4月に発表されたふたつの研究

 ひとつのシステマティックレビュー(図の2.)は、風疹ワクチンの効果を検証したシステマティックレビュー。さきほどのコクランとは違い、観察研究まで含めたレビューでした。

 今必要な情報は抗体価に関する研究ではなく、風疹の発症や先天性風疹症候群の発症を検討した研究です。まさにその疑問に答えるものでした。

 これがなんと、2013年4月19日発表です。


 もうひとつのシステマティックレビュー(図の1.)は、風疹ワクチンの医療経済分析についてでした。

 こちらも役立ちそうでしたが、2013年4月29日発表のものです。

 

 まるで風疹が流行した日本に向けられたようにさえ思える2本の研究、ありがたく順番に拝見することにしましょう。

システマティック・レビュー(2013年)

Mongua-Rodriguez N, Díaz-Ortega JL, García-García L, Piña-Pozas M,Ferreira-Guerrero E, Delgado-Sánchez G, Ferreyra-Reyes L, Cruz-Hervert LP,Baez-Saldaña R, Campos-Montero R. A systematic review of rubella vaccinationstrategies implemented in the Americas: impact on the incidence andseroprevalence rates of rubella and congenital rubella syndrome. Vaccine. 2013 Apr 19;31(17):2145-51. doi: 10.1016/j.vaccine.2013.02.047. Epub 2013 Mar 5.PubMed PMID: 23470237.   
P▶ 小児または成人に対して風疹予防として
E▶ 小児から成人までの全員にワクチンを接種すると
C▶ 小児のみまたはリスクのある人のみにワクチン接種するのに比べて
O▶ 風疹の発症は少ないか、先天性風疹症候群は少ないか
T▶ 予防、システマティックレビュー 
《結果》※※
14の観察研究あり
小児のみのワクチン Vaccination strategy for children
  • 風疹発症が23.64~99.62%減少し、流行周期が5-9年毎から5-12年毎に延長した。
  • 先天性風疹症候群について検討した研究はサンパウロで実施されたひとつだけで、開始後1年で93.98%減少した。
  • しかし、この戦略では若年成人にアウトブレイクがみられたとのコスタリカの報告があり、十分ではない。
リスクのある成人に追加 Combined vaccination strategy with a risk approach for adults
  • ブラジルでの報告では、すぐに風疹が95.01%減少、先天性風疹症候群が100%減少した。
  • しかし、7年後にアウトブレイクがみられ、(ワクチンを受けていなかった)男性の発症が5.54倍多かった。結果的に風疹発症は累積で4%しか減少していない。
成人全員に追加 Combined vaccination strategy with a universal approach
  • メキシコの報告では全員への接種を開始して1年で劇的な風疹発症減少がみられた。先天性風疹症候群が98.93%減少した。
  • コスタリカでも先天性風疹症候群が100%減少した。

 

全員を接種対象にすべき

 日本がこれまで行なってきたように、小児のみ、または女性のみに対して行われてきた風疹ワクチン戦略が不成功に終わったことは、諸外国の事例から明らかになっていることでした。
 
 そして、小児だけではなく成人全員を接種対象とすることで、風疹発症だけではなく先天性風疹症候群までも劇的に減少させることに成功しています。それも直後に。
 
 先天性風疹症候群が100%減少ということは、発症ゼロになっているのです。
 
 このシステマティックレビューから結論づけられることは、ひとつだけ。
 直ちに全員を接種対象としたワクチンプログラムを導入すべきでしょう。
 

残念ながらCRSが発症

 報道によると、残念ながら先天性風疹症候群(CRS)の発症が確認されています。2013年に入り3件。過去の発生数を見ると、かなり深刻な事態であることがわかります。

横浜市衛生研究所
先天性風しん症候群について


 国立感染症研究所の資料によると、発症例は1999年4月からの2013年3月までに27例が報告。ピーク時の2004年には10例の報告がみられましたが、その後は減少し、2005年以降は毎年0〜2例で推移していました。

 しかし、2012年には5例、今年に入ってからはすでに3例となっています。

ワクチンの費用効果は

  そもそもCRSの発症は少ないのだから、ワクチンに費用をかける必要があるのか?という疑問に答える研究が、もうひとつのシステマティックレビューです。医療経済分析になっています。

システマティック・レビュー(2013年)

Babigumira JB, Morgan I, Levin A. Health economics of rubella: a systematic review to assess the value of rubella vaccination. BMC Public Health. 2013 Apr29;13(1):406. [Epub ahead of print] PubMed PMID: 23627715.


 27の研究が紹介されていますが、CRSの診断や治療にかかる費用は重く、1例当たり年間$4,200~$57,000(2012年米国ドル)、生涯$140,000と試算されています。

 費用便益分析、費用効果分析・費用効用分析において、いずれも小児とリスクのある成人に対するワクチンは費用効果が高いという結果になっています。

 

 このシステマティックレビューでは、成人全員に接種した場合の分析は含まれていないようです。

 

世界の中の日本

 この論文の中にこのような記述があります。

Most cases of rubella and congenital rubella syndrome (CRS) occur in low- and middle-income countries.  
Although WHO published a position paper to guide introduction of RCV into the national childhood immunization schedules of member countries in 2000 [5], only a few low-income countries have included the vaccine in their schedules. <中略> Of the 165 reported cases of CRS in 2009, AFR, with 47, had the highest number.


 CRSのほとんどは中~低所得国で発生しています。そして、2000年(平成12年)のWHO方針説明書を守らなかった低所得国からの発生が多いことを指摘しています。

 2009年に発生したCRS 165例のうち、アフリカから47例発生がみられています。

 

 わが国は高所得国でありながら対策が不備なためにCRSを発生させてしまったという、やや不名誉な立場に追いやられています。

 これ以上の流行とならないよう、緊急対策が必要でしょう。

 また、これまでの対策がうまく機能していない原因についても、よく考える必要があるかもしれません。

 

(2016.6.6 記事を統合)

※記事内容は論文を紹介するものであり、一定の学術的な見解や治療指針を示すものではありません。詳細は原著論文をご参照ください。